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法改正で変わる離婚後の親権者変更|3つの新パターンとは
2026年4月1日に施行された改正民法により、離婚後の親のあり方が大きく変わりました。これまで、離婚後の親権は父または母のどちらか一方が持つ「単独親権」が原則でした。しかし、法改正によって父母が協力して子育てを続ける「共同親権」も選択肢に加わります。
この変更は、これから離婚を考える方だけでなく、すでに離婚が成立し、現在単独親権となっている方々にとっても無関係ではありません。法改正後は、家庭裁判所の判断によって、離婚後の親権者のあり方を変更できるパターンが、従来の1つから3つに増えることになるのです。

具体的には、以下の3つのパターンが考えられます。
- 【従来から可能】単独親権者から、もう一方の親への変更
(例:親権者である母から、父へ親権者を交代する) - 【新たに可能に】単独親権から、共同親権への変更
(例:親権者である母に、父も親権者として加わる) - 【新たに可能に】共同親権から、単独親権への変更
(例:共同親権とした後、事情の変化により母または父の単独親権とする)
この記事では、特に「すでに離婚して単独親権だけれども、共同親権に変更できるのだろうか?」という疑問をお持ちの方に向けて、家庭裁判所がどのような基準で判断するのか、その要件と手続きについて、弁護士が専門的な視点から詳しく解説していきます。
親権者変更が認められるための要件|裁判所の判断基準を解説
離婚後に親権者を変更するには、当事者間の合意だけでは足りず、必ず家庭裁判所の手続きを経る必要があります。そして、家庭裁判所が親権者変更を認めるか否かを判断するにあたっては、法律に基づいた明確な基準が存在します。
大原則:「子の利益」が最優先される
親権者変更に関するすべての判断の根幹にあるのは、「子の利益のために必要があると認めるとき」という大原則です。これは民法第819条6項に定められています。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条
6 家庭裁判所は、子の利益のために必要があると認めるときは、親権者を変更することができる。
「子の利益」とは、決して親の希望や都合(「子どもと一緒に暮らしたい」「元配偶者に親権を渡したくない」など)ではありません。子どもの健全な成長、心身の健康、精神的な安定、そして福祉といった観点から、総合的に判断されます。具体的には、以下のような要素が考慮されることになります。
- これまでの養育環境の継続性(安定した生活を維持できるか)
- 父母それぞれの監護能力や経済状況
- 父母双方との良好な関係が維持できるか
- 子どもの年齢に応じた、子自身の意思
裁判所は、あくまで「子どもの視点」に立ち、どちらの親の元で、あるいはどのような親権の形で生活することが、その子にとって最も幸せな結果をもたらすのかを慎重に判断するのです。
考慮要素①:これまでの養育実績と父母子の関係
裁判所が「子の利益」を判断する上で、極めて重視するのが「父母と子との関係」、すなわち離婚後の養育実績です。具体的には、以下のような点が厳しく評価されます。
- 面会交流の実績:これまで定期的かつ円滑に面会交流が行われ、子どもと良好な関係を築けているか。
- 養育費の支払い状況:子どもの生活を支える義務である養育費を、滞りなく誠実に支払ってきたか。
- 子どもとの情緒的な結びつき:手紙や電話、プレゼントなどを通じて、子どもへの愛情を示し続けてきたか。
特に、正当な理由なく養育費を支払ってこなかった事実は、「子の利益」を軽視する行動と見なされ、親権者変更の申立てにおいて著しく不利な事情となります。これまでの行動の一つひとつが、親としての適格性を判断する材料となるのです。したがって、面会交流の際の写真やメールのやり取り、養育費の送金記録といった客観的な証拠は、ご自身の主張を裏付ける上で非常に重要になります。

考慮要素②:父母間の協力関係
特に、単独親権から共同親権への変更を求める場合、「父と母との関係」が極めて重要な審査ポイントとなります。共同親権は、父母が離婚後も子育てのパートナーとして協力し合うことを前提とする制度だからです。
裁判所は、以下のような点から、父母が協力できる関係にあるかを慎重に見極めます。
- 子どもの進学や医療など、重要な事柄について冷静に話し合いができるか。
- 子どもの日々の様子について、必要な情報共有を円滑に行えるか。
- 互いの意見が対立した際に、子どもの利益を最優先して譲り合うことができるか。
もし、父母間の対立が激しく、感情的な罵り合いに終始したり、連絡を取ることすら困難だったりする状況では、共同親権はかえって「子の利益」を害する結果になりかねません。子どもを父母の争いの板挟みにしてしまい、深刻な精神的負担を強いる恐れがあるからです。このような場合、裁判所が共同親権への変更を認める可能性は低いと言わざるを得ません。
【重要】DV・虐待がある場合の親権者変更
家庭内暴力(DV)や児童虐待は、子どもの心身に深刻な傷を残す、決して許されない行為です。今回の民法改正では、こうした事案を踏まえて子どもの利益を確保するため、重要な規定が設けられました。
それは、虐待等を防止するため必要があると認められる場合や、父母間の暴力その他の事情により父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる場合には、裁判所は単独親権を定めなければならないとした点です(改正民法第819条7項)。「必要的単独親権事由」と呼ばれるものです。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条
7 家庭裁判所は、父又は母が子に虐待をし、又は父若しくは母による子に対する虐待その他の父又は母が子の利益を著しく害する行為(以下この項において「虐待等」という。)を防止するため必要があると認めるとき、又は父と母との間における暴力その他の事情により父母が共同して親権を行うことが困難であると認めるときは、前項の規定にかかわらず、親権者を変更する裁判において、親権者が単独で親権を行うことを定めなければならない。
ここでいう「暴力」や「虐待」には、殴る蹴るといった身体的暴力だけでなく、暴言や威圧的な態度で相手を支配する精神的DV(モラハラ)も含まれます。したがって、過去に配偶者へのDVや子への虐待があり、虐待等の防止の必要性や父母が共同して親権を行うことの困難性が認められる場合には、共同親権への変更は認められにくいと考えられます。
もしあなたがDV被害者で、元配偶者から共同親権への変更を求められて不安に感じているのであれば、改正民法第819条7項の要件に該当する事情を裁判所に具体的に主張することが重要です。重要なのは、DVや虐待の事実を客観的な証拠(診断書、警察への相談記録、録音、写真など)をもって裁判所に示すことです。より具体的な対応については、DVやモラハラがある場合の離婚手続きに関する記事もご参照ください。
法務省もこの点について分かりやすい資料を公開していますので、参考にされるとよいでしょう。
参照:Q&A形式の解説資料(民法編)|法務省
ケース別|親権者変更が認められやすい・認められにくい事情
これまでの解説を踏まえ、どのような場合に親権者変更が認められやすく、また、認められにくいのかを具体的に整理してみましょう。ご自身の状況がどちらに近いか、客観的に見つめ直すための参考にしてください。
変更が認められる方向に働く事情
以下のような事情は、「子の利益」にかなうと評価され、親権者変更が認められる可能性を高める要素となります。
- 父母の協力関係が良好である:離婚後も子どもの情報を密に共有し、進路などについて協力して意思決定できる関係性が築けている場合。(特に共同親権への変更で重視)
- 養育実績が十分である:長年にわたり、養育費の支払いや面会交流を誠実に続けてきた実績がある。
- 現在の養育環境に問題がある:現在の親権者が重い病気になった、経済的に困窮した、育児放棄の状態にあるなど、子どもの福祉にとって看過できない問題が生じている。
- 子ども自身が変更を強く望んでいる:子どもが15歳以上の場合、裁判所はその意思を聴取しなければならず、その意向は極めて重視されます。15歳未満であっても、年齢や発達段階に応じて子の意思は慎重に考慮されます。
- 変更後の養育環境が整っている:申立人側に安定した収入があり、子どもの生活環境(住居、学校など)や、祖父母などのサポート体制が具体的に整っている。
なお、離婚時に取り決めた監護権の状況も判断材料の一つとなります。
変更が認められない方向に働く事情
一方で、以下のような事情は「子の利益」に反すると判断され、変更が認められない、あるいは却下される可能性が高いと言えます。
- DV・虐待の事実がある:前述の通り、これは法律で定められた「必要的単独親権事由」に該当するため、変更は認められません。
- 父母間の対立が激しい:連絡もままならず、協議の見込みが全くない場合、特に共同親権への変更は困難です。
- 養育費の不払いがある:合理的な理由なく、長期間にわたって養育費を支払っていない場合、親としての責任を果たしていないと見なされます。
- 親の都合が主たる理由である:「自分が再婚するから」「元配偶者の再婚相手に子どもを育てられたくない」といった、親自身の都合が主な動機であり、子の利益が二の次にされている場合。
- 環境の激変を伴う:変更によって子どもが転校を余儀なくされたり、慣れ親しんだ友人関係から引き離されたりするなど、子どもに大きな精神的負担を強いることが予測される場合。
相手方の同意がないこと自体が、直ちに変更が認められない理由にはなりません。しかし、相手方が反対する理由がDV被害など合理的なものであれば、裁判所はその主張を重視するでしょう。

親権者変更の全手順|家庭裁判所での手続きの流れ
親権者変更を実現するためには、以下のステップで家庭裁判所の手続きを進める必要があります。当事者間の話し合いで作成した協議書などがあっても、それだけで親権者を変更することはできません。
- 元配偶者との協議(任意)
まずは元配偶者に親権者変更の意向を伝え、話し合いを試みます。ここで合意ができれば、後の調停手続きがスムーズに進む可能性が高まります。しかし、合意は必須ではありません。 - 家庭裁判所への調停申立て
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てます。申立てには、申立書のほか、当事者と子の戸籍謄本などが必要です。詳しくは裁判所のウェブサイトをご確認ください。
申立て先:親権者変更調停|裁判所 - 調停(話し合い)
調停委員会(裁判官と調停委員で構成)が仲介役となり、当事者双方から事情を聞き、解決案を提示するなどして合意を目指します。家庭裁判所調査官が子の意向調査や家庭訪問を行うこともあります。 - 審判(調停不成立の場合)
調停で合意に至らなかった場合、手続きは自動的に「審判」に移行します。審判では、裁判官が双方の主張や提出された資料、調査官の報告書など、一切の事情を考慮して、親権者を変更すべきか否かを判断(決定)します。 - 役所への届出
調停成立または審判確定により親権者変更が認められたら、10日以内に市区町村役場に届出を行う必要があります。これによって、戸籍の記載が変更されます。
親権者変更を検討する際に準備すべきこと
親権者変更の手続きに臨むにあたっては、事前の準備が極めて重要です。感情論ではなく、いかに客観的な事実と証拠に基づいて主張を組み立てられるかが、結果を大きく左右します。申立てる側と申し立てられた側、それぞれの立場で準備すべきことを確認しましょう。
【申立てる側】有利に進めるための準備
親権者変更を求める側は、なぜ変更することが「子の利益」に繋がるのかを、具体的かつ論理的に主張・立証する必要があります。
- □ 変更を求める理由の整理
なぜ現状のままではいけないのか、変更によって子どもの生活や福祉がどう向上するのかを、「子の利益」の観点から明確に説明できるように準備します。 - □ これまでの養育実績を示す証拠の収集
養育費の振込記録、面会交流の際の写真やメールのやり取り、子どもからの手紙など、良好な親子関係を証明できるものを集めます。 - □ 変更後の養育計画の具体化
変更後の住環境、子どもの通学先、放課後の過ごし方、祖父母などからのサポート体制といった具体的な養育計画を詳細に作成し、提示できるようにします。 - □ 自身の経済状況を示す資料
源泉徴収票や確定申告書など、子どもを安定して養育できる経済力があることを示す資料を準備します。
【申し立てられた側】現状維持を求める場合の対応
突然、元配偶者から親権者変更を申し立てられた場合、冷静に対応することが肝心です。安易に同意せず、現状の養育に問題がないことをしっかりと主張しましょう。
- □ 現在の養育環境の安定性を主張する準備
子どもの成績表、健康診断の結果、友人関係が良好であることなど、現在の環境で子どもが心身ともに健やかに成長していることを具体的に示せるようにします。 - □ 相手方の問題点を指摘する証拠の整理
相手方に養育費の不払いや面会交流の不履行、過去のDVといった問題行動がある場合は、その証拠を整理しておきます。 - □ 変更が「子の利益」に反する理由の構成
環境の変化(転校など)が子どもに与える精神的負担や、申立人の養育体制への懸念など、変更がなぜ子どものためにならないのかを論理的に主張します。
まとめ|離婚後の親権者変更は弁護士に相談を
2026年施行の改正民法により、離婚後の親権のあり方には新たな選択肢が加わりました。しかし、単独親権から共同親権への変更を含め、親権者変更が認められるか否かは、あくまで個別の事情に基づき、「子の利益」という唯一の基準に照らして家庭裁判所が慎重に判断します。
その判断には、法律の専門的な知識だけでなく、これまでの養育実績や父母間の関係性など、様々な要素が複雑に絡み合います。当事者同士の話し合いでは、どうしても感情的な対立に陥りやすく、子どもの視点を見失ってしまうことも少なくありません。
お子様の将来を左右する極めて重要な問題だからこそ、早期の段階で弁護士にご相談されることをお勧めします。弁護士は、ご自身の状況を法的な観点から客観的に分析し、認められる可能性や、手続きを有利に進めるために何を準備すべきかを的確にアドバイスすることができます。また、相手方との交渉や、家庭裁判所での複雑な手続きの代理人として、あなたの精神的な負担を軽減し、最善の解決に向けてサポートします。
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