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裁判上の離婚事由とは?協議・調停離婚との違い
夫婦間の話し合いで離婚の合意ができない場合、最終的には裁判所に離婚を認めてもらう「裁判離婚」という手続きに進むことになります。しかし、裁判所が離婚を認めるためには、当事者が「離婚したい」と望んでいるだけでは不十分で、法律で定められた特定の理由、すなわち「裁判上の離婚事由」が存在しなければなりません。
なぜ、協議や調停では双方の合意さえあれば理由を問われずに離婚できるのに、裁判では厳格な理由が必要とされるのでしょうか。
それは、協議離婚が当事者間の合意により成立し、調停離婚も家庭裁判所の調停手続の中で当事者の合意を基礎として成立するのに対し、裁判離婚は「国家(裁判所)が一方の意思に反してでも婚姻関係を解消する」という強力な公的判断だからです。そのため、国家が介入するに足るだけの、客観的で正当な理由が法律で厳密に定められているのです。
もし相手が離婚に応じてくれない場合でも、これらの法定離婚事由を証明できれば、裁判を通じて離婚を実現できる可能性があります。一方で、感情的な対立だけでは、離婚が認められないケースも少なくありません。裁判を有利に進めるためには、まずどのような選択肢があるのかを知ることが重要です。円満な解決を目指すための調停や交渉の方法も存在します。
【2026年最新】民法770条に定められた4つの法定離婚事由
裁判上の離婚事由は、民法第770条第1項に定められています。かつては5つの事由が規定されていましたが、2026年4月1日の民法改正により、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という事由が削除され、現在は以下の4つとなっています。
(裁判上の離婚)第七百七十条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
(以下略)
この記事では、最新の法律に基づき、これら4つの離婚事由が具体的にどのようなケースを指すのか、そしてそれを証明するためには何が必要なのかを、一つひとつ詳しく解説していきます。この記事の全体像については、離婚に相手が応じてくれない場合の法的対応と解決策で体系的に解説しています。
参照:民法770条の条文
1. 配偶者に不貞な行為があったとき(1号)
「不貞行為」とは、一般的に「不倫」や「浮気」と呼ばれる行為を指しますが、法律上の定義はより厳密です。判例(最判昭和48年11月15日民集27巻10号1323頁)によれば、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」とされています。
重要なのは「自由な意思にもとづいて」という点です。したがって、例えば無理やり性的関係を強要されたようなケースは、本人の意思に反するため不貞行為には該当しません。
また、裁判で不貞行為を主張するためには、客観的な証拠が極めて重要になります。単なる推測や、「怪しい」というだけでは不十分です。具体的には、以下のような証拠が有効とされています。
- 配偶者と不倫相手がラブホテルに出入りする写真や動画
- 肉体関係があったことを推認させるメール、LINE、SNSのやり取り
- 探偵事務所(興信所)の調査報告書
- 配偶者自身が不貞行為を認めた音声データや念書

なお、同性との性的関係や、性風俗店の利用が不貞行為にあたるかについては、法的な評価が分かれる場合がありますが、個別の事情によっては「婚姻を継続し難い重大な事由」(4号)に該当する可能性はあります。より具体的な手順については、不倫慰謝料請求で必要な証拠の種類と収集方法をご覧ください。
2. 配偶者からの悪意の遺棄(2号)
「悪意の遺棄(あくいのいき)」とは、正当な理由がないにもかかわらず、夫婦の義務である「同居・協力・扶助」を一方的に放棄することを指します。ここでいう「悪意」とは、単に知っているという意味ではなく、婚姻関係を破綻させようという意図を持って行われる、倫理的に非難されるべき心理状態を意味します。
裁判例(新潟地判昭和36年4月24日下裁民12巻4号857頁)においても、「「遺棄」とは、正当の理由なくして同法第七五二条に定める夫婦としての同居および協力扶助義務を継続的に履行せず、夫婦生活というにふさわしい共同生活の維持を拒否すること」であるとされています。
具体的には、以下のような行為が該当する可能性があります。
- 理由なく一方的に家を出て、帰ってこない
- 十分な収入があるにもかかわらず、生活費を一切渡さない
- 健康であるにもかかわらず働かず、家事や育児にも協力しない
- 配偶者を家から追い出し、同居を拒否する
一方で、単身赴任や、配偶者からのDVやモラハラから逃れるために別居するといったケースは、「正当な理由」があるため、悪意の遺棄にはあたりません。夫婦には互いに生活を支え合う義務があり、その一環として婚姻費用の分担が定められています。
悪意の遺棄を証明するためには、生活費が振り込まれていない預金通帳の写し、家出を責めたり生活費を要求したりした内容証明郵便、別居の経緯を記した日記などが証拠となり得ます。判例(最判昭和39年9月17日民集18巻7号1461頁)では、妻が夫の意思に反して兄らを同居させ、夫の財産から多額の支出をしていたことが原因で夫が同居を拒否したケースで、夫の同居拒否は悪意の遺棄には当たらないと判断されています。
3. 配偶者の生死が3年以上不明(3号)
これは、配偶者が生きているか亡くなっているか、そのどちらもが3年以上にわたって全く分からない状態を指します。単に連絡が取れない、どこにいるか分からないという「行方不明」の状態だけでは足りず、「生死が」不明であることが要件です。
3年という期間は、最後に連絡が取れたり、生存が確認されたりした時から起算します。この事由は、配偶者の側に原因があるかどうかは問われません。現代では適用されるケースは非常に稀ですが、警察への捜索願届の受理証明書や、関係者からの聴取書などが証拠となります。
3号の適否が問題となったケースは第二次世界大戦後の未帰還者に関するものが多く、最近の裁判例はみられません。
なお、生死不明の期間が7年に及ぶ場合は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることで、法律上死亡したものとみなされ、婚姻関係を解消することも可能です。
4. その他婚姻を継続し難い重大な事由(4号)
この事由は、先の1号から3号までには当てはまらないものの、客観的に見て夫婦関係が完全に破綻しており、もはや修復の見込みがない状態を指す、包括的な規定です。実際の離婚裁判では、この4号事由が最も多く主張されます。
どのようなケースが「重大な事由」に該当するかは、個別の事情に応じて裁判所が判断しますが、典型例としては以下のようなものが挙げられます。
- DV(身体的暴力)・モラハラ(精神的暴力):診断書、写真、録音データ、警察への相談記録などが証拠となります。
- 長期間の別居:明確な年数はありませんが、一般的に3年~5年程度が目安とされることが多いです。別居期間の長さだけでなく、その間の連絡頻度や関係修復の努力の有無なども考慮されます。
- セックスレス:正当な理由なく長期間にわたり性交渉が拒否されている場合、該当する可能性があります。
- 浪費や多額の借金:生活を顧みないギャンブルや浪費、配偶者に内緒で作った多額の借金などが原因で家庭生活が破綻した場合。
- 親族との不和:単なる不仲ではなく、配偶者が一方的に親族に加担し、婚姻関係の維持に非協力的であるなど、その対立が深刻な場合。
- 性格の不一致:単なる性格の不一致だけでは離婚事由として認められにくいですが、それが原因で上記のようなDVや別居などに発展し、婚姻関係が破綻したと認められれば、離婚が認められる可能性があります。
これらの事由を主張する際にも、客観的な証拠が重要となります。より詳しい手順については、離婚前に別居を検討している方へ:別居のメリットと注意点をご覧ください。
【法改正】「強度の精神病」事由の削除とその影響
2026年4月1日に施行された民法改正で、旧第4号に定められていた「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という離婚事由が削除されました。これは、本記事で解説する離婚制度における大きな変更点です。
この条文は、精神疾患を持つ配偶者との離婚を認める一方で、病気という本人の意思や責任とは言えない理由で一方的に離婚を請求できる点について、長年批判がありました。特に、最高裁判所は過去の判例(最判昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁)で、離婚を認める条件として「病者の今後の療養や生活について具体的な方途を講じ、その見込みがつかなければならない」という厳しい要件(具体的方途論)を課していました。しかし、この考え方自体が、病気になった配偶者を社会的に見捨てることにつながりかねない、障害を持つ人々の権利を尊重する観点から問題があるとの指摘がなされていました。

今回の法改正は、こうした社会的な要請や批判を踏まえたものです。では、この事由が削除されたことで、配偶者の精神疾患を理由とする離婚は一切できなくなったのでしょうか。
もっとも、この事由が削除されたからといって、配偶者の精神疾患が関係する離婚が一切認められなくなるわけではありません。
今後は、個別のケースにおいて、配偶者の精神疾患の程度や、それによって夫婦の協力・扶助義務がどの程度果たせなくなっているか、長年の献身的な介護によって相手方が疲弊しきっているかといった事情が、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(現4号)の中で総合的に考慮されることになります。つまり、病気そのものが理由ではなく、病気が原因で「婚姻関係が回復不可能なまでに破綻したか否か」という観点から判断されることになったのです。これは、より実態に即した柔軟な判断を促すための変更と言えるでしょう。
参考:民法第七百七十条のいわゆる「精神病離婚」に関する質問主意書
離婚事由を裏付ける証拠と具体的な裁判例
これまで見てきたように、裁判で離婚を認めてもらうためには、法定離婚事由の存在を客観的な証拠によって証明することが不可欠です。主張が正しくても、それを裏付ける証拠がなければ、裁判所は離婚を認めてくれません。
例えば、「不貞行為」を主張するなら肉体関係を推認させる証拠が、「悪意の遺棄」を主張するなら同居・協力・扶助義務に違反していることを示す証拠が必要です。どのような事実を証明したいのかによって、集めるべき証拠は異なります。
ここでは、実際の裁判で重視されやすい事情を理解するため、典型的な判断枠組みに沿った事例を紹介します。より詳しい手順については、不倫慰謝料を請求する際に必要な証拠と集め方のポイントをご覧ください。
想定事案①:長期間の別居を理由に離婚が認められ得るケース
【想定事案】
夫Xと妻Yは婚姻後、性格の不一致などから関係が悪化し、約5年間別居していました。婚姻期間は、5年ほどで子どもはいません。別居期間中、夫婦間の交流はほとんどなく、互いに独立して生計を立てていました。Xが離婚を求めて訴訟を提起したのに対し、Yは関係修復の意思があるとして離婚を拒否しました。
【離婚事由の判断】
①別居期間が5年という長期間に及んでいること、②その間、夫婦としての交流がほぼ断絶していること、③互いに経済的に自立しており、共同生活の実態が失われていること、④関係修復に向けた具体的な努力が見られないこと、⑤婚姻期間は長期ではなく、⑥子どももいないことなどを総合的に考慮すると、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、Xの離婚請求を認められる可能性が高いと考えられます。
単に別居期間の長さだけでなく、その間の夫婦の関係も考慮されます。別居中の生活費である婚姻費用の支払い状況なども、判断材料の一つとなり得ます。
想定事案②:「性格の不一致」だけでは離婚が認められにくいケース
【事案の概要】
妻Aは、夫Bとの価値観の違いや生活習慣のズレといった「性格の不一致」を理由に離婚を求めて訴訟を提起しました。Aは、Bの些細な言動に傷ついたことなどを主張しましたが、夫婦間に暴力や暴言、不貞行為などはなく、別居もしていませんでした。
【離婚事由の判断】
Aが主張する「性格の不一致」は、夫婦であればどこの家庭にも起こりうる範囲内のすれ違いに過ぎないと判断される可能性があります。夫婦関係を修復するための努力も尽くされておらず、客観的に見て婚姻関係が破綻しているとまでは言えないとして、Aの離婚請求を棄却される可能性があります。
多くの人が離婚理由として挙げる「性格の不一致」も、それ単独では法定離婚事由として認められることは困難です。それが原因で深刻な対立が生じ、長期間の別居やDVといった客観的な破綻事実に繋がっていることを証明する必要があります。安易に裁判に踏み切るのではなく、まずは調停や交渉の方法を検討することも大切です。
注意すべき点:有責配偶者からの離婚請求は認められるか?
自ら不貞行為を行うなど、婚姻関係を破綻させた主な原因を作った側の配偶者を「有責配偶者(ゆうせきはいぐうしゃ)」と呼びます。
原則として、この有責配偶者からの離婚請求は、信義に反するとして裁判所では認められません。自分で問題を起こしておきながら、相手に離婚を強制するのは不公平だと考えられているためです。
しかし、この原則にも例外があります。最高裁判所の判例(最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)は、以下の3つの要件をすべて満たす場合には、例外的に有責配偶者からの離婚請求を認める余地があることを示しました。
- 夫婦の別居が相当の長期間に及んでいること。(年齢や同居期間との比較で判断され、概ね10年前後が一つの目安とされます)
- 夫婦の間に未成熟の子(経済的に自立していない子)がいないこと。
- 相手方配偶者が、離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれないこと。

これらの要件は非常に厳格であり、すべてを満たすハードルは極めて高いのが実情です。したがって、有責配偶者の立場から離婚を望む場合は、慎重な対応が求められます。もし不倫慰謝料請求を受けた場合は、その対応も含めて専門家のアドバイスを受けることが不可欠です。
まとめ:離婚事由の判断に迷ったら弁護士にご相談ください
本記事では、2026年4月1日施行の最新の民法に基づき、裁判で離婚するために必要な4つの法定離婚事由について解説しました。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
これらの事由が法律で定められているものの、ご自身の状況が具体的にどれに該当するのか、そしてそれを証明するための十分な証拠があるのかを個人で判断することは、非常に難しい場合が多いでしょう。特に「婚姻を継続し難い重大な事由」の判断は、個別の事情に大きく左右されるため、専門的な知見が不可欠です。
もし、相手が離婚に応じてくれず裁判を考えている、自分のケースが離婚事由にあたるか分からない、どのような証拠を集めればよいか不安だ、といったお悩みを抱えていらっしゃるなら、一人で抱え込まずに、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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