このページの目次
突然の慰謝料請求…まず何をすべきか?
交際していた相手の配偶者から、ある日突然、不貞行為を理由に慰謝料を請求する通知が届けば、多くの方が強い不安や混乱を感じると考えられます。特に「既婚者だとは全く知らなかった」「騙されていたのに、なぜ自分が…」という状況であれば、驚きや不安を感じることも少なくありません。
この記事では、不倫慰謝料を請求されてしまった方、とりわけ相手が既婚者であることを知らなかった方が、ご自身の権利を守り、請求に対応するために知っておくべき具体的な防衛策と初期対応について、専門家の立場から解説します。このテーマの全体像については、不倫慰謝料を請求された場合の対応で体系的に解説しています。
請求書が届いたら確認すべき3つのポイント
慰謝料請求の通知(多くは内容証明郵便で届きます)を受け取ったら、書面の内容を客観的に確認することから始めましょう。確認すべきは、主に以下の3点です。
- 誰から(請求者):請求者は相手の配偶者本人でしょうか。それとも、代理人の弁護士でしょうか。弁護士が代理人についている場合、基本的に回答ややり取りは相手方代理人弁護士に対して行う必要があります。
- いくら(請求額):請求金額について確認することが重要です。
- なぜ(請求根拠):どのような事実(いつ、誰と、どのような不貞行為があったか)を根拠に請求しているのかを確認します。ご自身の認識と事実が異なっている部分はないか、冷静に確認してください。
これらの情報を正確に把握することが、以後の反論や交渉の第一歩となります。より具体的な手順については、内容証明を受け取った場合の初期対応をご覧ください。
行うことが好ましくない対応
請求された直後の以下のような行動は避けてください。
- 請求を無視する:「支払うつもりはないから」と放置した場合、相手は交渉の余地なしと判断し、速やかに訴訟手続きに移行する可能性があります。
- 感情的に連絡・謝罪する:相手に直接電話をかけたり、会って話そうとしたりするのは避けるべきです。不用意な発言が録音され、後の交渉や裁判で不利な証拠として利用されるリスクがあります。また、法的な責任の有無が確定していない段階で安易に謝罪すると、非を全て認めたと解釈されかねません。
- 安易に示談書などにサインする:提示された請求額が低いからといって、その場で示談書や念書にサインをすることには慎重になるべきです。一度サインをしてしまうと、その内容を覆すことは極めて困難になります。

慰謝料を支払わずに済む?知っておくべき3つの反論
不貞行為の慰謝料請求は、法律上「不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)」にあたります。そして、この請求が法的に認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。逆に言えば、その要件が一つでも欠けていることを主張・立証できれば、慰謝料の支払い義務を免れたり、大幅に減額させたりすることが可能です。
慰謝料請求に対して考えられる主な反論は、以下の3つです。
- 不貞行為の不存在:肉体関係がなかった場合など、そもそも法的な意味での「不貞行為」が存在しないという主張です。
- 婚姻関係の破綻:あなたと交際相手が関係を持つ前から、相手夫婦の関係がすでに修復不可能なほど壊れていた(破綻していた)という主張です。
- 故意・過失の不存在:相手が既婚者であることを知らず、かつ、知らなかったことについて落ち度(過失)もなかったという主張です。
これらの反論を的確に行うことが、ご自身の正当な権利を主張するうえで重要です。以降の章で、特に重要なポイントを詳しく解説していきます。
「既婚者と知らなかった」をどう証明するか
「騙されていたのに、なぜ私が慰謝料を払わなければならないのか」これは、既婚者と知らずに交際してしまった方が抱く、当然の感情です。そして、その主張は法的な観点からも極めて重要です。
不貞行為の慰謝料が認められる大前提として、請求された側に「故意」または「過失」があったことが必要になります。「故意」とは相手が既婚者だと知っていたこと、「過失」とは少し注意すれば既婚者だと気づけたはずなのに不注意で気づかなかったことを指します。
つまり、「既婚者だと知らなかったし、知らなかったことについて自分に落ち度もない」ということを客観的な証拠をもって証明できれば、慰謝料の支払い義務は発生しないのです。より具体的な手順については、既婚者と知らずに交際した場合のリスクをご覧ください。
「知らなかった」を裏付ける有効な証拠とは?
「知らなかった」という内心を証明することは簡単ではありません。だからこそ、客観的な証拠が何よりも重要になります。以下のようなものが、故意・過失の不存在を裏付ける有効な証拠となり得ます。
- マッチングアプリ等のプロフィール:「独身」「未婚」と記載されたプロフィールのスクリーンショット。出会いのきっかけが、独身者しか登録できない前提のサービスであれば、有力な証拠となります。
- メッセージの履歴(LINE、メール等):相手が「独身だ」「結婚していない」と明言しているやり取り。あるいは、結婚を前提とした将来の話をしている会話なども有効です。
- SNSの投稿内容:家族の存在を全く感じさせない、一人暮らしを装った投稿内容の記録。
- 第三者の証言:共通の友人や知人に対し、相手が「独身だ」と話していた場合、その証言も証拠となり得ます。
これらの証拠は、日時が明確にわかる形で保全しておくことが極めて重要です。より具体的な手順については、既婚者と知らなかった場合の慰謝料支払義務をご覧ください。

「注意すれば気づけたはず」過失ありと判断されるケース
一方で、たとえ相手から「独身だ」と嘘をつかれていたとしても、「少し注意すれば既婚者だと気づけたはずだ」と判断され、「過失あり」とされてしまうケースもあります。裁判所は、単に「知らなかった」という主張だけでなく、気づけなかったことに落ち度がないかを客観的に評価します。
具体的には、以下のような事情があると過失が認定されやすくなります。
- 土日や祝日、夜間に全く連絡が取れなかった、会えなかった。
- 交際期間が長いにもかかわらず、一度も相手の自宅に招かれたことがない。
- 左手の薬指に指輪の跡があった、または指輪を外す仕草を見た。
- 生活用品などを買う際に、明らかに家族がいるような言動があった。
- 社内恋愛で、相手が既婚者であるという噂があった。
これらの事情に心当たりがある場合、「知らなかった」という主張が認められるハードルは高くなる可能性があります。ご自身の状況を客観的に見つめ直すことが重要です。より具体的な手順については、既婚者と知らずに交際した場合のリスクをご覧ください。
裁判例から見る「故意・過失」の判断基準
実際の裁判では、「故意・過失」はどのように判断されているのでしょうか。裁判所は、出会いの経緯や交際中の状況などを総合的に考慮して判断します。
【故意・過失が否定されやすいケースの例】
- お見合いパーティーや結婚相談所で出会った:独身であることが参加・登録の前提となっているため、相手が既婚者であると疑うべき事情は乏しいと判断されやすい傾向にあります。
- 相手が周到に独身であると偽っていた:独身証明書を偽造したり、一人暮らし用の部屋を借りていたりした場合など、積極的に騙されていた状況では、過失はなかったと判断される可能性が高いです。
【過失が認定されやすいケースの例】
- 職場恋愛で、相手が既婚者であることは比較的知られていた:少し調べれば分かる状況であったにもかかわらず、確認を怠ったとして過失が認定されることがあります。
- 相手の言動に不審な点が多かった:前述の「過失ありと判断されるケース」に複数該当するなど、客観的に見て疑わしい状況が多々あったにもかかわらず、関係を続けた場合は過失を問われる可能性が高まります。
このように、裁判所は具体的な事実関係に基づき、個別に判断を下します。ご自身のケースがどちらに近いかを見極めるためにも、専門家である弁護士に相談し、法的な見通しを立てることが重要です。より具体的な手順については、不倫慰謝料裁判での防衛策をご覧ください。
その他の有効な反論:婚姻関係の破綻と時効
「既婚者と知らなかった」という主張の他にも、慰謝料請求を退けたり、減額させたりするための有力な反論が存在します。
「すでに関係は壊れていた」婚姻関係破綻の主張
もし、あなたが交際相手と関係を持つ以前から、相手夫婦の関係がすでに修復不可能なほど冷え切り、形骸化していた場合、法的に保護されるべき「婚姻共同生活の平和」という利益は存在しないと判断されます。その結果、あなたの行為は不法行為とはならず、慰謝料の支払い義務が否定されるか、大幅に減額される可能性があります(最高裁判所 平成8年3月26日判決)。
「婚姻関係の破綻」が認められやすい客観的な状況としては、以下のようなものが挙げられます。
- 長期間にわたって別居している
- 夫婦間で離婚調停や離婚訴訟が係属中であった
- 家庭内別居状態で、会話や食事も一切なく、互いに干渉しない生活が続いていた
- 生活費の送金などもなく、経済的な協力関係も失われていた
相手からは「夫婦関係は円満だった」と主張されることがほとんどです。そのため、交際相手の言動などから、破綻していたことを裏付ける証拠を集めることが重要になります。より具体的な手順については、婚姻関係の破綻に関する主張をご覧ください。
「請求が遅すぎる」消滅時効の主張
不貞行為による慰謝料請求権には、「消滅時効」という法律上の期限があります。この時効が成立している場合、たとえ不貞行為の事実があったとしても、慰謝料を支払う義務はなくなります。
時効期間は、「請求者が不貞行為の事実と、その相手が誰であるかを知った時から3年間」です。また、不貞行為があった時から20年が経過した場合も同様に時効となります。
重要なのは「知った時」がいつか、という起算点です。請求者がいつ不貞の事実を具体的に認識したのかを立証することが、時効を主張するうえで重要です。時効が成立している可能性がある場合、相手に対して「時効を援用します」という意思表示をすることが必要です。これは通常、内容証明郵便などで行います。時効の成立が近い場合、慰謝料請求のタイミングが重要になります。

慰謝料の減額交渉を有利に進めるために
様々な反論を試みても、法的な支払い義務を完全に免れることが難しいケースもあります。しかし、その場合でも、請求された金額をそのまま支払う必要はありません。相手の請求額は、法的な相場を大きく超えた金額であることも少なくありません。
不貞行為の慰謝料の裁判上の相場は、夫婦が離婚に至らない場合で50万円~100万円程度、離婚に至った場合でも100万円~300万円程度が一つの目安です。この相場を基に、以下のような事情を具体的に主張することで、慰謝料を減額できる可能性があります。
- 不貞行為の期間が短い、肉体関係の回数が少ない
- 交際の主導権は既婚者である相手方にあった
- 請求者に対し、真摯に謝罪の意を示している
- 請求者夫婦に、他にも婚姻関係を悪化させる原因があった
- すでに一定の社会的制裁(例:会社を退職した等)を受けている
これらの減額事由を的確に主張し、冷静に交渉することで、支払額を適正な範囲に抑えることが可能です。より具体的な手順については、慰謝料額の判断基準をご覧ください。
まとめ:慰謝料請求は弁護士への早期相談が有効な選択肢です
突然の慰謝料請求に対し、法的な知識がないまま独力で対応することは、精神的な負担が非常に大きいだけでなく、多くのリスクを伴います。相手方の主張が法的に妥当なのか、ご自身の反論が通用するのか、そして提示された金額が適正なのかを正確に判断することは、極めて困難です。
早期に弁護士に相談することで、以下のような大きなメリットが得られます。
- 法的な見通しの正確な判断:あなたの状況でどのような反論が可能か、慰謝料がいくら位になる可能性があるかなど、専門的な見通しを立てることができます。
- 相手方との交渉代理による精神的負担の軽減:感情的になりがちな相手方との交渉を全て弁護士に任せることができ、精神的なストレスの軽減につながる可能性があります。
- 的確な証拠収集のアドバイス:あなたの主張を裏付けるために、どのような証拠が有効か、どうやって集めればよいか、具体的なアドバイスを受けられます。
- 将来の紛争を防ぐ示談書の作成:交渉がまとまった際には、後々のトラブルを蒸し返されることのないよう、法的に有効な示談書を作成し、問題の再燃を防ぐための対応を行います。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では、離婚・男女問題に注力しており、これまで数多くの慰謝料請求案件を解決に導いてまいりました。初回のご相談は無料でお受けしておりますので、対応に迷う場合は、まずは現在の状況をご相談ください。私たちが、あなたの状況に応じた解決策を一緒に考え、今後の対応方針を整理するためのサポートを行います。事務所の概要やアクセスはこちらからご確認いただけます。
