貞操権侵害の慰謝料請求|既婚者と知らず交際した方へ

交際相手が既婚者だった…「貞操権侵害」とは?

信じていた交際相手が、実は既婚者だった――。その事実を知った場合、強い精神的苦痛を受けることがあります。「独身だと言っていたのに」「将来を考えていた時間は何だったのか」と、心に深い傷を負うのは当然のことです。

このような、既婚ではないという相手の嘘によって受けた精神的苦痛は、法的に「貞操権侵害」として、慰謝料請求の対象となる可能性があります。

貞操権とは、誰と性的関係を持つかを自らの意思で自由に決定する権利のことであり、性的自己決定権というほうがわかりやすいかもしれません。相手が既婚者であることを隠してあなたと肉体関係を持った場合、その行為はあなたの自由な意思決定を欺き、侵害したものと評価されるのです。

つまり、「相手が既婚者だと知っていたら、肉体関係を持つことはなかった」というあなたの意思が、相手の嘘によって歪められたことに対し、不法行為として、慰謝料請求が認められるということです。

このテーマの全体像については、既婚者と知らずに交際した場合の法的リスクで体系的に解説しています。

貞操権侵害で慰謝料を請求するための3つの必須条件

貞操権侵害を理由に慰謝料を請求するためには、単に「騙された」という感情だけでなく、法的に認められるための客観的な条件を満たしている必要があります。具体的には、以下の3つの条件が重要となります。

①相手が独身であると偽っていた(欺罔行為)

まず大前提として、相手があなたを騙す行為、すなわち「欺罔(ぎもう)行為」があったことが必要です。

これには、言葉で明確に「独身だよ」「結婚していない」と嘘をついたケースはもちろん、以下のようなケースも含まれる可能性があります。

  • マッチングアプリのプロフィールで「未婚」に設定していた
  • 「将来は結婚したいね」など、結婚を前提とした会話を頻繁にしていた
  • 指輪を外す、家族の話題を巧みに避けるなど、既婚者であることを隠すための積極的な偽装工作をしていた

重要なのは、相手の言動によって、あなたが「この人は独身である」と信じ込まされたという事実です。これらの言動は、後の慰謝料請求において重要な証拠となります。

②嘘を信じた結果、肉体関係があった

貞操権は、性的な自己決定権を保護するものであるため、慰謝料請求が認められるためには、原則として相手の嘘を信じた結果、肉体関係(性交渉)があったことが必要です。肉体関係が存在しない場合、貞操権侵害を理由とする慰謝料請求は困難と言わざるを得ません。

ただし、肉体関係がなくても、結婚の約束(婚約)をしていたにもかかわらず、既婚者であることが発覚して破談になったようなケースでは、「婚約不履行」など別の理由で慰謝料を請求できる可能性があります。

交際相手が既婚者だと知り、ショックを受けている女性のイメージ。

③既婚者と知らなかったことに「過失」がない

これは、慰謝料請求の成否を分ける最も重要なポイントです。相手が既婚者であると知らなかったことについて、あなたに「過失」、つまり「不注意」がなかったことが求められます。

裁判所は、「通常人であれば、少し注意すれば相手が既婚者だと気づけたはずだ」と判断した場合、あなたの「過失」を認定し、慰謝料請求を認めなかったり、大幅に減額したりすることがあります。

では、どのような場合に「過失がない(または小さい)」と判断されやすいのでしょうか。

【過失が否定されやすいケース】

  • 独身証明書の提出が必須の結婚相談所や、独身者限定を謳うマッチングアプリで出会った
  • 相手が一人暮らしの家に頻繁に招いてくれた
  • 休日や夜間でも自由に連絡が取れ、デートもできていた
  • 相手が「以前の結婚で失敗して…」などと、巧妙な嘘の経歴を語っていた

一方で、以下のような事情があると、「過失あり」と判断されるリスクが高まります。

【過失が認定されやすいケース】

  • 土日や祝日に全く会えない、夜間の電話には出ないなど、不自然な点が多かった
  • 相手の自宅や勤務先を一切教えてもらえなかった
  • 「妻とは別れるつもりだ」など、既婚者であることをうかがわせる発言があったにもかかわらず、関係を続けた

交際中に少しでも「おかしいな」と感じる点があった場合、それを放置していると、後に「注意すれば気づけたはず」と判断されかねません。ご自身の状況で既婚者と知らなかった場合に責任が発生するのか、客観的な評価が難しい場合は、一度専門家に相談することをお勧めします。

慰謝料の相場と金額を左右する重要ポイント

貞操権侵害の慰謝料額は、法律で一律に決まっているわけではありません。個別の事情を総合的に考慮して判断され、一般的には数十万円から200万円程度が相場とされていますが、事案によってはそれを超えることもあります。

裁判所が慰謝料の金額を算定する際に、特に重視するポイントは以下の通りです。

増額につながる要素減額につながる要素
交際期間が長い交際期間が短い
肉体関係の回数が多い肉体関係の回数が少ない
結婚の約束や、それをほのめかす言動があった単なる遊びの関係だった
妊娠・中絶の事実がある特になし
相手の嘘が悪質・巧妙である早い段階で謝罪や一定の賠償があった
あなたが受けた精神的苦痛が大きい(うつ病の発症など)あなたにも過失があったと認定された
慰謝料の増減に影響する主な要素

例えば、結婚を約束し、2年以上も交際を続けていた末に、相手の嘘が発覚したケースと、数回デートして肉体関係を持った直後に既婚者だと判明したケースとでは、慰謝料の額は大きく異なります。

特に、交際の結果として妊娠し、中絶を余儀なくされたような場合には、あなたの身体的・精神的負担は極めて大きいものとして、慰謝料は高額になる傾向があります。より具体的な手順については、妊娠や中絶を巡るトラブルをご覧ください。

貞操権侵害の慰謝料額が増える要素と減る要素を天秤で比較した図解。

慰謝料請求を有利に進めるために集めるべき証拠

慰謝料請求を成功させるためには、客観的な証拠が何よりも重要です。感情的になって相手とのやり取りを全て消去してしまう前に、必ず以下の証拠を保全してください。

集めるべき証拠は、大きく分けて2種類あります。

1. 相手が独身だと偽っていた証拠

  • マッチングアプリのプロフィール:「未婚」「独身」と表示されている画面のスクリーンショット
  • メッセージのやり取り:「独身だ」「彼女はいない」といった発言や、結婚をほのめかす内容が記録されたLINE、メール、SNSのDMなどのスクリーンショット(日付、相手のアカウント名が分かるように撮影することが重要です)
  • 音声データ:独身であると語っている会話の録音
  • 知人の証言:共通の知人に対し、相手があなたのことを「結婚相手」として紹介していた場合など

2. 肉体関係があったことを推認させる証拠

  • メッセージのやり取り:性交渉があったことをうかがわせる内容のLINEやメール
  • 写真や動画:二人で旅行に行った際の写真、二人で宿泊したホテルの室内での写真など
  • 領収書など:ラブホテルやシティホテルの領収書、クレジットカードの利用明細
  • 手帳や日記:肉体関係を持った日などを記録したもの

これらの慰謝料請求に必要な証拠は、多いほど、あなたの主張を裏付ける重要な資料となります。冷静に、かつ慎重に収集・整理を進めましょう。

相手からの反論にどう対抗?典型的な主張と再反論

いざ慰謝料を請求すると、相手は支払いを免れるため、様々な反論をしてくることが予想されます。ここでは、典型的な反論と、それに対する法的な再反論を解説します。事前に相手の主張を想定しておくことで、冷静に対応することが可能になります。

反論①「結婚するとは一度も言っていない」
これは、結婚をほのめかされていた場合に多い反論です。しかし、貞操権侵害は「結婚の約束」を必須要件とはしていません。問題の本質は、「独身だと偽って肉体関係を持ったこと」にあります。したがって、「結婚の約束の有無にかかわらず、独身だと信じさせたあなたの嘘によって、私の性的な自己決定権が侵害された」と再反論することが可能です。

反論②「注意すれば既婚者だと気づけたはずだ(あなたにも過失がある)」
これは、あなたの過失を指摘して、慰謝料の支払いを免れたり、減額させたりしようとする最も典型的な反論です。これに対しては、「独身限定のアプリで出会った」「あなたは終始独身であるかのように振る舞っていた」など、あなたが相手を独身だと信じるに至った客観的な状況証拠を突きつけることが有効です。証拠に基づいて事実を具体的に主張し、あなたに過失がなかったことを立証していくことになります。

これらの反論に個人で対応することは、精神的な負担が大きくなる場合があります。法的な構成を整理し、証拠に基づいて交渉を進めるためには、弁護士への相談が有効な選択肢となります。

貞操権侵害について弁護士に相談している様子のイメージ。

知っておくべき2つのリスク|逆請求と費用倒れ

慰謝料請求に踏み切る前に、知っておくべき現実的なリスクが2つあります。専門家として、これらの点も誠実にお伝えします。

1. 相手の配偶者から不倫慰謝料を請求されるリスク
最も注意すべきリスクです。貞操権侵害を主張しているあなた自身が、相手の配偶者から「不貞行為の共同不法行為者」として、不倫慰謝料を請求される可能性があります。

あなたが「相手が既婚者だと知らなかったし、知らなかったことに過失もない」と立証できれば、配偶者からの請求は認められません。しかし、もし交際の途中で既婚者だと気づいたにもかかわらず関係を続けてしまった場合などは、気づいた時点以降の行為について責任を問われる可能性があります。

貞操権侵害の慰謝料を請求することで、相手の配偶者に交際の事実が知られるきっかけとなる可能性はゼロではありません。このリスクをどう評価し、どう備えるかは、慎重な判断が必要です。

2. 費用倒れのリスク
貞操権侵害で認められる慰謝料は、必ずしも高額になるとは限りません。事案によっては、獲得できる慰謝料額よりも、調査費用や弁護士費用の方が高くなってしまう「費用倒れ」の状態になる可能性も考慮すべきです。

当事務所では、ご相談いただいた際に、事案の見通しや想定される慰謝料額、そして弁護士費用について、事前に明確にご説明いたします。ご依頼いただくかどうかは、その上で冷静にご判断いただければと思います。

貞操権侵害の慰謝料請求、解決までの流れ

実際に慰謝料を請求する場合、一般的には以下のような流れで進みます。

  1. 証拠の収集・整理
    まずは、これまで解説したような、相手の嘘や肉体関係を裏付ける証拠を可能な限り集め、時系列に沿って整理します。この段階で弁護士にご相談いただければ、どのような証拠が有効か、具体的にアドバイスすることが可能です。
  2. 内容証明郵便による請求
    証拠が揃ったら、弁護士名で相手方に対し、貞操権侵害に基づく慰謝料を請求する旨を記載した「内容証明郵便」を送付します。これにより、請求の意思や根拠を明確に伝え、相手方との交渉を開始しやすくなります。
  3. 示談交渉
    内容証明郵便の送付後、相手方(またはその代理人弁護士)と慰謝料の金額や支払方法について交渉を行います。多くのケースは、この示談交渉の段階で解決に至ります。当事者同士では感情的になりがちな交渉も、弁護士が代理人として間に入ることで、冷静かつ法的な根拠に基づいて進めることができます。
  4. 訴訟
    示談交渉で合意に至らない場合や、相手が請求を無視する場合には、裁判所に訴訟を提起します。訴訟では、裁判官に対し、証拠に基づいてこちらの主張の正当性を立証していくことになります。判決に至るまでには半年から1年以上かかることもありますが、最終的な解決を図るための法的な手続きです。

この一連の手続きでは、法的な知識に加え、相手方とのやり取りに伴う精神的負担への対応も必要になります。不倫慰謝料請求の準備と手順を一人で進めることに不安を感じる方は、決して無理をなさらないでください。

相手の虚偽により精神的苦痛を受けた場合には、法的に請求できる可能性があるかを確認することが重要です。虎ノ門法律経済事務所柏支店では、男女問題に関するご相談に注力しており、初回のご相談は1時間無料でお受けしています。一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談ください。

keyboard_arrow_up

0471971166 問い合わせバナー 事務所紹介